「自筆証書遺言」のトラブル!判例は?

      2016/08/17

「自筆証書遺言」は、費用がほとんどかからず、手軽に書くことができる「遺言書」です。しかし、要件を満たしていないと、せっかく作った「遺言書」が無効になってしまいます。そうなると、相続トラブルを避ける目的で作成した「遺言書」が全くの無意味になります。そうならないためにも、全ての要件を満たした「自筆証書遺言」を作る必要がありますが、中には、裁判で有効になった例もあります。今回は、「自筆証書遺言」に関する過去の判例をいくつかご紹介します。

「自筆」にまつわる判例

他人が手を添えて書いた?

「自筆証書遺言」は、全て自分で文字を書かなければなりません。一文字でも他人が書けば、無効です。それでは、遺言者の手に他人が手を添えて書いた場合には、どうなるのでしょうか。

ペン

この案件は、遺言者が高齢であったため、本人が書いた「遺言書」が判読困難であったことを受けて、妻が添え手を行って、「遺言書」を完成させたもので、あくまでも本人が自ら「遺言書」を作成したことに間違いはなく、あくまでも字が見やすいように、軽く手を添えていただけだと主張したものです。これに対して、相続人の一部から「本人の筆跡ではないので、無効ではないか」と指摘があり、裁判となりました。

昭和62年10月8日の最高裁判決では、この「遺言書」には手を添えた妻の意思が反映されており、無効ということになりました。あくまでも妻は「きれいな字を書こう」という意思だったのですが、裁判所は遺言者の「筆跡」ではないので、遺言者の意思とは言い難いという理由でした。

目録をタイプで作成?

遺言書の中の「財産目録」を手書きではなく、タイプで作成したという例があります。一人の相続人の主張としては、「『財産目録』は、あくまでも相続財産を表す資料であるので、遺言者の意思とは直接関係なく、手書きでも構わない」というものでした。

しかし、昭和59年3月22日の東京高裁判決では、この遺言書は無効としました。その理由としては、この「財産目録」は遺言書の最も重要な部分であり、しかも第三者に作成してもらったという点を挙げています。もっとも、遺言者の意思を反映してこの「財産目録」が作成されていたとしても、「自筆証書遺言」の大原則である「全文自筆」が守られていないので、無効とするものでした。

タイプライター

「日付」にまつわる判例

「吉日」と書いた?

「自筆証書遺言」には、作成した日付を記載するようになっていますが、「昭和41年7月吉日」と記載した遺言書は有効なのかが争われました。有効だとする相続人の主張としては、「遺言書の日付を記載する一番の理由は、複数の遺言書があった場合に、どれが最新もものかを確定する必要があるためだが、遺言者は他に遺言書を作成していないので、その必要はなく、『7月吉日』でも十分である」というものでした。

昭和54年5月31日の最高裁判決では、この遺言書を無効としました。その理由として、「あくまでも法律では、特定できる日付を記載することが要件となっており、他に遺言書が見当たらないとしても、その要件を緩和することにはならない」というものでした。

「日付」が間違っていた?

実際には、昭和57年12月以降に作成された遺言書にもかかわらず、一人の相続人から「遺言書の日付は、『昭和56年4月4日』となっているため、無効である」という主張がされました。他の相続人からは、「他に遺言書がないため、作成日をさかのぼった遺言書は有効である」という主張がなされました。

平成5年3月23日の東京高裁判決では、この遺言書は無効としました。その理由としては、「2年近くもさかのぼった日付を記載している点から、単なる『書き間違い』とは言えず、事実と異なる日付の記載している遺言書は日付のない遺言書と同じであり、民法で定める方式を欠いている」というものでした。

「署名・押印」にまつわる判例

開封した封筒に署名・押印?

「自筆証書遺言」では、遺言者の署名と捺印が必要です。しかし、遺言書には署名・捺印にはないものの、封筒に署名・捺印されたものが有効かどうか、争われた事例がありました。

平成18年10月24日の東京高裁判決では、この遺言書は無効とされました。この遺言書で、最も大きなポイントとなったのは、署名・捺印されていた封筒がすでに開封されていたことでした。開封されていた以上、遺言書と封筒は一体のものとして認められず、「署名・捺印を欠いた無効の遺言書」という結論になったのです。

封筒だけに押印?

遺言書に署名がなく、封筒に捺印されている「自筆証書遺言」は有効かどうか裁判になりました。相続人の一人は、「遺言書自体に『署名・捺印』がないため、無効である」と主張しました。他の相続人からは、「確かに遺言書には捺印はないが、封筒の閉じ目に捺印されているため有効である」という主張がなされました。

平成6年6月24日の最高裁判決では、この遺言書は有効とされました。その理由は、「民法で捺印が必要とされる趣旨は、遺言者の同一性と真意を証明するものであり、捺印することで文書の完成を担保するものである。従って、この趣旨が損なわれない限り、捺印が署名の近くにある必要はない」というものでした。

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福岡 學
 熊本県出身。福岡大学法学部法律学科卒。現在、福岡市で行政書士事務所を開業しています。相続・遺言、民事法務(内容証明・契約書・離婚協議書等)、公益法人などが専門分野です。また過去に、福岡県内の大手学習塾で20年間国語・英語の教科指導を担当し、国語科副主任、教務主任などを歴任しました。身近な法律問題、教育問題について、専門知識、過去の経歴を活かし、丁寧で分かりやすく説明いたします。

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