「公正証書遺言」のトラブル!判例は?

   

「公正証書遺言」は、公証人のアドバイスを受けて作成し、2人以上の証人も立ち会うため、かなり厳格な「遺言書」です。しかし、その作成過程で何らの不備が生じると、せっかく作った「遺言書」が無効になってしまいます。そうなれば、「遺言書」が全く無意味になります。そうならないためにも、全ての要件を満たした「公正証書遺言」を作る必要があります。今回は、「公正自筆証書遺言」に関する過去の判例をご紹介します。

遺言者の意思能力

軽度な認知症だった

遺言書を作成する際に、遺言者には「意思能力」が求められます。「意思能力」とは、民法で「事理を弁識する能力」とされていますが、簡単に言えば、「自分の言動についてきちんと認識できる能力」ということです。一般的に10歳未満の幼児、泥酔者、重い精神病や認知症のある人には、この「意思能力」がないとされています。

遺言者が軽い認知症であったため、相続人の一人から「遺言書」の無効を主張された裁判がありました。もちろん、軽い認知症であっても、きちんと受け答えできれば何も問題はありません。しかし、問題にされたのは、「遺言書」の内容が複雑であり、遺言者はその内容をきちんと理解していなかったのではないかという点でした。他の相続人は、「公証人の読み聞かせをきちんと聞いており、署名・捺印もしっかりしていたので、遺言書は有効である」というものでした。

平成18年9月15日横浜地裁の判決は、この遺言書を無効とするものでした。その理由は、「遺言者は当時、アルツハイマー型老年痴呆と診断されていた」、「遺産の一部を共同相続させたり、遺言執行人を複数指名したり、遺言執行人の報酬について細かく規定したり等、遺書の内容が複雑であった」、「公証人の読み上げに簡単な返事をするだけだった」というものでした。

遺言者はうなずくだけだった

公証人は、作成した「遺言書」を遺言者に読み聞かせ、確認をとることになっています。遺言者が、その際にただうなずくだけだったので、相続人の一人が「遺言書」の無効を主張しました。他の相続人からは、「公証人との受け答えは成立しているので、有効である」という主張でした。

 昭和51年1月16日最高裁判決では、この遺言書を無効としました。その理由は、「遺言者は公証人の複数の質問に対して、ただうなずくだけで言葉を発しなかった」、「遺言者は遺言書作成当時、切迫昏睡だった」というものです。

※切迫昏睡…糖尿病性昏睡とも言い、一時的に著しい高血糖になることによって昏睡状態になる。

遺言者は高齢だった

認知症の症状がなくても、遺言者が高齢という理由で、相続人の一人が「遺言書」の無効を主張した事案があります。具体的には、「遺言者は作成当時95歳で、しかも脳梗塞や静脈血栓を患っていて寝たきりの状態であった。遺言書が書かれている内容を認識できるような能力はなかった」というものです。これに対して他の相続人からは、「遺言者は、公証人の質問にもはっきりと返答しており、意思能力に全く問題はなかった」という主張でした。

平成17年2月18日東京高裁判決は、この遺言書を有効するものでした。その理由は、「遺言書の作成時には、遺言者の反応は良好であり、別の答えが返ってきたのは聴力の衰えや反応の鈍さであった」、「介助を受けながらも本人が公証役場に赴き、署名を行っている」、「署名の乱れは身体機能の低下によるものである」、「遺書内容もそれほど不自然ではない」などでした。

遺言書の内容・証人

受取人指定の生命保険

「公正証書遺言」は、法律のプロである公証人が内容をチェックするため、内容や形式について裁判で争われるは、それほど多くはありません。しかし、受取人指定の生命保険が裁判で争われたことがあります。

遺言者の長男によると、「次男が受け取った死亡保険金のうち、300万円は遺言で次男に遺贈されたものだから、遺言者の相続財産であり、遺留分算定の基礎となる財産に含まれる。」というものです。一方次男は、「死亡保険金は受取人固有の財産だから、遺言者の相続財産ではなく、遺留分算定の基礎となる財産に含まれない。」というものです。

昭和60年9月26日東京高裁判決は、この遺言書を無効とするものでした。その理由は、「保険金請求権は受取人固有の財産であり、相続財産ではないから、遺贈の目的とすることはできない」、「この遺言は、死亡保険金を受取人以外の相続人に遺贈するものとする限度において無効である」、「死亡保険金を受取人以外の第三者に遺贈する旨の遺言を行っても、それだけでは保険金受取人の変更とはならない」というものでした。

方式に不備があった

「公正証書遺言」の作成時には、「印鑑証明書」などを提出させて、本人確認を行います。しかし、遺言者が公証人に「印鑑証明書」を提出しなかったため、相続人の一人から、「作成の際の方式に不備があるので、遺言書は無効である」との主張がありました。

昭和57年1月22日最高裁判決は、この遺言書を有効としました。その理由は、「公証人と遺言者とは既に面識があって、公証人は遺言者の氏名を知っていた」、「その結果、人違いでないことが明らかなので、印鑑証明書を提出しなくても、公正証書の効力は認められる」というものでした。

証人が遅れてきた

「公正証書遺言」の作成時には、2人以上の証人が必要です。しかし、証人の一人が遅れてきたために、公証人が遺言者に遺言内容を読み聞かせる場に立ち会わなかったので、遺言書は無効であるとして、相続人の一人が主張した事案があります。

昭和52年6月14日最高裁判決は、この遺言書を無効としました。その理由は、「遺言内容の筆記が終わった後、証人の一人が加わったが、その後の公証人による筆記内容の読み聞かせでは遺言者は一言も発せずにただうなずいたのみであった」、「これでは証人が遺言者の真意を十分に確認したとは言えず、この遺言は民法969条の要件(2人以上の証人の立ち合い)を満たしていない」というものでした。

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福岡 學
 熊本県出身。福岡大学法学部法律学科卒。現在、福岡市で行政書士事務所を開業しています。相続・遺言、民事法務(内容証明・契約書・離婚協議書等)、公益法人などが専門分野です。また過去に、福岡県内の大手学習塾で20年間国語・英語の教科指導を担当し、国語科副主任、教務主任などを歴任しました。身近な法律問題、教育問題について、専門知識、過去の経歴を活かし、丁寧で分かりやすく説明いたします。

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