「あの子に手厚く」は許される?法定相続の基礎知識

      2016/08/31

遺言は本来、絶対的であるはずのものです。でも、だからといって遺族の気持ちを理解しないような分け方を書き遺してしまうと、トラブルのもとになってしまいます。実は、法定相続人を一切無視した遺言は、相続人の申し立てがなされれば叶えられません。法定相続の基礎知識を知り、希望と現実をすり合わせた遺言を作成しましょう。

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法定相続って?

民法が定めている相続人の範囲と配分を、法定相続といいます。必ず法定相続のとおりに取り分を設定しなければならないわけではありません。しかし、遺言の内容について、相続人の間で合意ができなかった場合には、この法定相続を目安に取り分を決めることになります。

法定相続人は配偶者と血縁者

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民法が定める法定相続人には、順位があります。まず配偶者は常に相続人となり、次に、子がいなければが、配偶者とあわせて相続人になります。子や孫などの直系卑属が存在しない場合は、父母祖父母などの直系尊属が、配偶者と合わせて相続人になります。

子も孫も存在せず、父母や祖父母がすでになければ、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹がすでにないときにはその子ども、つまりが、配偶者と合わせて相続人になります。

配分は組み合わせによって変わる

相続人の法定相続分は、その組み合わせによって変わります。国税庁のサイトから、そのまま引用しましょう。

イ 配偶者と子供が相続人である場合
配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2

ロ 配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3

ハ 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4

引用元:https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4132.htm

相続人の利益を守る遺留分という考え方

もしも極端な遺言がなされた場合でも、兄弟と甥姪以外の相続人には、最低限の配分が保証されます。これを遺留分といい、配偶者と子どもは法定相続分の1/2を受け取ることができます。父母や祖父母のみが相続人の場合は、1/3となります。

もしも法定相続人が遺言の配分を不服に感じたら、遺言によって財産を得た人に「遺留分減殺請求」を行うことで請求できます。遺留分減殺請求には決まった方式がないため、当人同士の交渉にもできますが、難しい場合は裁判所に訴訟を提起することになります。

トラブルになりやすいケース例

さて、「極端な遺言なんて、そうそうないだろうから、私には関係のないことだ」と思われるでしょうか。でも、思わぬところにトラブルの落とし穴があるのです。ケース例を、実際にみていきましょう。

内縁の妻や夫に財産を残したい

民法で定めている配偶者とは、婚姻関係のある人を指します。よって、内縁の妻や夫は法定相続人とはなりません。遺言書に遺贈の意思が書かれてはじめて、財産の承継が認められます。生前から内縁者と法定相続人の関係性に何ら問題がなければスムーズに遺贈がなされるでしょうが、そうではない場合、トラブルの危険性は否めません。

内縁者に財産のすべてを相続させたいという遺言は、なかなか受け入れられないことに注意しましょう。法定相続人による遺留分の主張がなされる可能性があります。穏便に済ませたいなら、あらかじめ遺留分を配慮した配分が必要です。

また、内縁者の住む家が遺産の大部分を占めていた場合、事態はかなり難しくなります。他の法定相続人による立ち退き要求の危険性があるからです。直ちに居住環境を奪ってしまう行為は「権利の濫用」と捉えられることが多いため、すぐに追い出されるというわけではありません。しかし、その後の身の振り方を示しておいてあげたほうがいいでしょう。

最後までお世話してくれたお嫁さんに財産を残したい

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すでに亡き長男のお嫁さんなどがそのまま同居し、介護まで行ってくれたなら、せめて遺贈により感謝の気持ちを表したい。その気持ちは自然で、尊いものです。しかし、お嫁さんは法定相続人になりえません。よって遺言による遺贈が必要ですが、この場合も過度な遺贈はトラブルのもとです。他の法定相続人の利益を考えながら遺言書を作成しましょう。

それだけでは感謝を示せないと思ったら、長男のお嫁さんと養子縁組をするのも一つの手です。また、長男の子ども、つまり孫への生前贈与について考えてみましょう。

これからが心配なあの子に手厚くしたい

子どもの一人が障害者であったりしたら、その子に手厚くしたいと思うのが親心です。他の兄弟ももちろん異論はないでしょうが、全財産を継がせるような極端さはやはりトラブルのもととなります。生前に子どもらとよく話し合って、遺言内容をオープンにしておくことが重要になるでしょう。

また、その子に意思能力のない場合は、財産を守ってあげるために必ず後見人を選任しておくことが重要です。成年後見制度による後見人は、財産だけではなく日常生活において、本人に代わりさまざまな決定をすることとなります。必ず弁護士などの専門家へ相談し、親亡きあとの我が子を守ってくれる人を慎重に選びましょう。

あの子にはもう、一銭も渡せない

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実の子であれ、「もう、びた一文も渡したくない」と思うような場合はあることでしょう。残念ながら、そんな人間でも子は子ですから相続権があります。ただ、法定相続人の相続権を奪う制度が唯一存在します。それが「廃除」です。

廃除は、生前に被相続人本人が、あるいは遺言により遺言執行者が家庭裁判所へ申し立て、認められることで成立します。裁判所は、権利を喪失するに値する重要な事由があるかどうかを厳しくチェックすることになります。

ただ、そんな親不孝者に子どもがいた場合、廃除されたらその子に相続権が移るだけなのであまり意味がないという見方もあります。孫は財産を守れそうでしょうか。ちょっと難しいかもしれませんね。大人しく遺留分だけを保証した遺言を書くか、孫をひたすら教育するしかないでしょう。

まとめ

極端な遺言書はトラブルのもとです。自分亡き後、愛する家族に争ってほしくないなら、法定相続についてよく知り揉めない遺言を心がけましょう。入り組んだ事情がある際は、必ず生前から弁護士を入れて相談をするのが鉄則です。

「相続のいろは」の章で分かりやすく相続を解説しています。

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奥山晶子(おくやま・しょうこ)
奥山晶子(おくやま・しょうこ)
山形県生まれ。冠婚葬祭互助会で2年間働いた後、出版業に従事。出版社の社員時代に日本初の喪主向け葬儀実用誌『フリースタイルなお別れざっし 葬』を発行(不定期)。以後、葬儀や墓について紹介するライターへ。 著書に「葬式プランナーまどかのお弔いファイル」(文藝春秋)「終活」バイブル 親子で考える葬儀と墓 (中公新書ラクレ)などがある。2013年より2年間、「NPO法人葬送の自由をすすめる会」の理事を務める。現在は葬儀や墓についての知識を足掛かりに、介護、相続、遺品整理など終活関連すべてについて勉強・取材・執筆中。

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